調和したハーモニーと伸びやかで明るい表現が魅力のゴスペル。日本では「ゴスペラーズ」がゴスペルアーティストとして有名です。また、ゴスペルと聞いてウーピー・ゴールドバーグ率いるシスター達が軽やかに「Hail Holy Queen」を歌う映画「天使にラブソングを」をイメージする人もいるでしょう。
何となく海外の音楽であることをご存知の人は多いでしょうが、ルーツや歴史を知っているという人は多くいません。
この記事では、ゴスペル音楽の定義や由来、歴史、そして音楽的な特徴や現在の広がりについて分かりやすく解説します。
- 「ゴスペルって一体どんな音楽なの」
- 「ゴスペルの歴史が知りたい」
- 「ゴスペルを歌えるようになるにはどうすればいい?」
上記のような疑問を持っている方は、ぜひ最後までご覧ください。
ゴスペルについて知ろう
皆さんはゴスペルについてどのようなイメージをお持ちでしょうか。「海外の音楽」「教会で歌っている」など、想像したイメージはさまざまでしょう。
最初に、ゴスペルがどのような音楽なのか分かりやすく解説します。
ゴスペルの定義
ゴスペルはアメリカ発祥の音楽ジャンルで、キリスト教プロテスタント系の宗教音楽です。
諸説ありますが、現在のゴスペルは黒人奴隷が元々アメリカ南部のプロテスタント音楽をアレンジしたものだという説が有力で、コール&レスポンスなどの技法が用いられるのはルーツにアフリカ大陸からアメリカに連れられた黒人奴隷が関わっているからだと考えられます。
ゴスペルには黒人教会で演奏されるブラックゴスペルと、白人教会で演奏されるホワイトゴスペルがありますが、現在はブラックゴスペルが一般的なゴスペル音楽として認知されており、ホワイトゴスペルは「コンテンポラリー・クリスチャン・ミュージック」と呼ばれるようになりました。
ゴスペルの意味
ゴスペルは英語でGospel musicと表記します。直訳すると「福音音楽」です。
Gospelの語源は「God spel」であると言われており、この際の「God」は「神」という意味ではなく「Good(良い)」を簡略化しているものとする説が有力です。「spel」は「伝える」という意味です。そのため、「イエス=キリストのおかげでもたらされた救いを神様に伝える歌」として扱われています。
ゴスペルのルーツと歴史
ゴスペルのルーツは、アメリカにおけるアフリカ系アメリカ人の歴史と深く関わっています。その起源を知ることで、ゴスペル音楽がどのように生まれ、発展してきたのか,
そして華やかなだけではない力強さや心に響く理由が理解できます。
アメリカにおけるゴスペルの起源
ゴスペル発祥の地はアメリカであり、その起源は19世紀半ばにアフリカ系アメリカ人の歌唱によって生まれました。アフリカから奴隷として強制的にアメリカヘ連れてこられた人々は、独自の文化や言語を奪われ、過酷な環境の中で生活していました。そのような状況下で、彼らはキリスト教の福音と出会い、神への信仰を歌で表現するようになります。これがゴスペルのルーツとなったのです。
黒人奴隷文化との関わり
ゴスペルのルーツは、アメリカにおける黒人奴隷たちの悲痛な歴史と密接に関わっています。アフリカからアメリカ大陸に連れられてきた黒人奴隷たちのなかには、過酷な環境を強いられるなかで服従ではなく自死を選ぶ人もいたと言います。そこで、黒人をより服従させ自死を防ぐため、希望を与えることを目的として宗教教育を施したのが、黒人奴隷とキリスト教との出会いです。
黒人奴隷にとっては過酷な生活でしたが、宗教教育を受け、イエス・キリストによる救いの日が訪れることを願うことで、何とか生きていたとも言えるでしょう。そんな黒人奴隷たちの心を支えてきた黒人霊歌から派生して生まれたのがゴスペルと言われています。
黒人奴隷の多くは、仲間と集まってゴスペルを歌うことで心のよりどころとしていました。歌の中には、故郷への思いや家族との別れ、そして奴隷制度からの解放を願う気持ちが込められていたと考えられます。このように、ゴスペルは黒人奴隷たちの魂の叫びであり、希望を生み出す歌として受け継がれていったのです。
キリスト教とゴスペル
キリスト教にはさまざまな宗教音楽があります。ゴスペル以外にも聖歌、典礼歌、賛美歌、カンタータなどがあり、日本人でも馴染み深いものであれば「きよしこの夜」や「アメージンググレイス」などの讃美歌が挙げられます。
キリスト教は大きく分けてカトリック、プロテスタント、正教会に分類できますが、ゴスペルが歌われたのはプロテスタント系でした。
元々、キリスト教の主要宗派であったカトリック系から分裂した生まれたのがプロテスタント系です。カトリックや正教会が教会や教皇に対する信仰を掲げているのに対し、プロテスタントは聖書のみを信仰の対象とし、キリスト教を信仰すれば対価となる善行がなくとも救われるという非常にシンプルな考え方を持っています。
これらのシンプルで分かりやすい信仰が黒人奴隷にとって受け入れやすかったことも、ゴスペルの誕生に大きく関わっていると考えられるでしょう。
アメリカの黒人教会で発展し、礼拝の中で重要な役割を果たしてきたゴスペル。聖歌隊が歌い、牧師が説教をしながらソロを歌うスタイルは、黒人教会の礼拝様式を踏襲したものです。
ゴスペルの歌詞は、聖書の教えや信仰に基づくものが多く、人々に希望や勇気を与えるメッセージが込められています。
ゴスペルの特徴を簡単に解説
ゴスペル音楽は、その独特な音楽的特徴によって多くの人々を魅了しています。力強い歌声やリズミカルな手拍子、感情豊かな表現などが組み合わさり、聴く人の心に響く音楽を生み出しています。
続いては、そんなゴスペルの音楽ジャンルとしての特徴を紹介していきましょう。
音楽の特徴
ゴスペルの音楽的な特徴は、伝統的なアフリカ系アメリカ人の音楽に由来しています。特に、スピリチュアルと呼ばれる黒人霊歌がその基礎となりました。チャンツや手拍子を用いたり、シャッフルと呼ばれる特有のステップを踏んだりするのが黒人霊歌の特徴で、その影響はゴスペルにも色濃く見られます。
ゴスペルは非常にリズミカルで、スイング感やグルーヴ感があります。力強いコーラスと豊かなハーモニーが特徴であり、ソロパートと合唱が組み合わされる形式が多く見られます。
アカペラで歌われることもありますが、どちらかと言えば楽器による伴奏をつけるケースの方が多いです。楽器には、ピアノやオルガン、ベースなどの楽器が使用されることもあり、稀にギターやタンバリンなどを用いることもあります。
また、ゴスペルではシンコペーションと言う独特なリズムを用いるのも特徴と言えるでしょう。コールアンドレスポンス、ハンドクラップ、ステップなど、聞くだけでなく見ていても華やかで楽しいのがゴスペルの音楽ジャンルとしての特徴です。
感情的な表現もゴスペルの大きな特徴であり、信仰や喜び、希望といった感情が強く歌われます。
音色の魅力
ゴスペルの音色の魅力は、何と言ってもそのパワフルで情感豊かな歌声にあります。歌手たちは声そのものを楽器のように扱い、ハーモニーやリズム、ビートボックスなどを駆使して多様な表現を生み出します。
声の重なりから生まれるハーモニーは、楽器では再現できない独特の温かみと重層感を持っています。また、感情の高まりを表現するためのシャウトや、意味を持たない言葉をメロディーに乗せるスキャットなどもゴスペル特有の音色と言えるでしょう。
ゴスペルのジャンルや種類
ゴスペルにはいくつかのジャンルや形式があります。
- ゴスペル
- コンテンポラリー・ゴスペル
- クリスチャン・ゴスペル
- ゴスペルブルース
- サウザンゴスペル
- ブルーグラスゴスペルなど
また、教会で牧師の説教が歌に発展するシャウティング・プリーチャーや、ギターを持ったストリートシンガーによるエヴァンジェリスト、そしてアカペラで歌うアカペラ・カルテットといった形式も存在します。アカペラは楽器を使わずに声だけで演奏する音楽形態であり、ゴスペルをアカペラで歌うことも可能です。日本人はゴスペルと言えばアカペラをイメージする人が多いですね。
ゴスペルは、ソウルやR&B、ジャズ、ロックなど様々な音楽ジャンルに影響を与え、さまざまな音楽と融合しながら発展してきました。
ゴスペルの現在の広がり
ゴスペルはアメリカ国内だけでなく、世界各地に広がりを見せています。その感動的な音楽は、国境を越えて多くの人々に受け入れられています。
世界各地への普及
ゴスペルはアメリカで誕生しましたが、現在では世界各地に普及しています。19世紀後半には、フィスク・ジュビリー・シンガーズのようなアカペラ合唱団がアメリカ国内やヨーロッパで公演を行い、黒人霊歌(スピリチュアル)を広めました。
20世紀に入ると、レコーディング技術の発展などもあり、ゴスペル音楽は広く一般に知られるようになります。映画「天使にラブソングを」のように、ゴスペルを題材にした作品が世界的にヒットしたことも、その普及に大きく貢献しました。
アメリカ以外でのゴスペル
現在、アメリカ以外の国でもゴスペルは盛んに歌われています。日本でも1990年代以降、ゴスペルワークショップや合唱団が増加し、宗教的な背景を持たない人々にも親しまれるようになりました。
日本語のゴスペルソングも生まれており、歌謡曲をゴスペル風にアレンジする試みも見られます。教会をベースにしたゴスペルクワイヤも多数存在し、多くの人々がゴスペルを通じて教会を訪れる機会を得ています。
このように、ゴスペルはその音楽的な魅力とメッセージ性によって、国境を越え文化や宗教の違いを超え多くの人々に歌われています。
【歌ってみたい!】ゴスペルを始める方法
ここまでゴスペルについて紹介してきましたが、歴史的な背景や魅力を知り、ますますゴスペルという音楽に興味を持ったという人も多いのではないでしょうか。そこで、「自分もゴスペルを歌ってみたい」と思った人もいるでしょう。
最後に、ゴスペルを始めたい人向けに始め方やゴスペルを習える場所を紹介します。
ゴスペルチームに加入する
合唱団などのように、定期的に集まってゴスペルを歌う歌唱チームなども存在します。SNSや地域の情報誌などでメンバーの募集をしている場合もあるので、チェックしてみてはいかがでしょうか。
プロテスタント系キリスト教会に行く
プロテスタント系キリスト教会の聖歌隊に入隊するのもひとつの方法です。ただし、聖歌隊は子供の頃から加入している人が多く、大人は入隊資格がないというケースもあるため注意しましょう。また、教会は信仰を目的とした場なので、歌うことを目的とした人を快く思わない人がいる可能性もあります。
ミュージックスクールに通う
ボイストレーニングなどを行っているミュージックスクールに通い、ボイストレーニングなどを受けながら同じくゴスペルを歌いたい同志を探す方法もおすすめです。時間はかかるかもしれませんが、宗教とは切り離して気軽にゴスペルを楽しめる仲間を探せるのが大きな魅力と言えるでしょう。
ゴスペルを歌うには力強い歌声が求められるほか、外国語の楽曲であれば適切な発声・発音なども必要です。まずは個人的な歌唱力を伸ばしながら、同じくボイストレーニングを受けている人からゴスペル仲間を見つけてみてはいかがでしょうか。
ゴスペルは宗教歌がルーツだけど自由な楽しみ方もできる
ゴスペルには、過去にあった奴隷制度をはじめとした暗い歴史が関係している一方、人々の心を支え希望を与えてきた音楽でもあることが分かりましたよね。現在では、宗教に関係なく多くの人がゴスペルを愛し、楽しんでいます。そこには、ゴスペルの神髄である希望を与える力があり、みんなが笑顔でゴスペルを歌っていることが特徴的です。
ぜひ、ゴスペルを聞く時には、今回紹介したゴスペルのルーツに思いを馳せてみてください。力強いサウンドがより力強く感じられることでしょう。
NAYUTAS(ナユタス)は、さまざまな音楽ジャンルを学べるミュージックスクールです。洋楽やKPOPなどにも対応しているため、あなたの歌いたい音楽について専門的に学ぶことができます。ゴスペルを歌う声量やテクニックを身に付けたい方は、ぜひNAYUTASをチェックしてみてください。