こんにちは!NAYUTAS(ナユタス)町田校です。
丸サ進行とは、アーティスト椎名林檎さんの「丸の内サディスティック」で使用されたことから名づけられた、都会的でクールな響きが印象的なコード進行です。
この丸サ進行は、最近の日本の音楽シーンにおいて、ポップスやボカロ、ジャズなどで頻繁に用いられています。今回はそんな「丸サ進行」または「Just The Two of Us進行」の解釈の仕方や魅力について見ていきましょう。
そもそも丸サ進行とはどんなコード進行?
丸サ進行とは、椎名林檎さんの人気曲「丸の内サディスティック」(1999年)で使用されたことから名づけられた、都会的でクールな響きが印象的なコード進行です。
循環コード(ループ)になっており、曲中何度も繰り返されます。
このコード進行は「丸の内サディスティック」が脚光を浴びる以前から存在し、注目されていました。
ジャズ・フュージョンのサックスプレイヤー、グローヴァー・ワシントンJr.のアルバム『Wine Light』(1980年)に収録され、グラミー賞ベストR&Bソング賞を受賞した楽曲「Just The Two of Us」の根幹をなすコード進行です。
アルバム『Wine Light』およびシングルカットされた「Just The Two of Us(邦題:クリスタルの恋人たち)」は、ともに大ヒットを記録しました。
世界中の多くの音楽ファンが、「Just The Two of Us」の漂うような曲想に魅せられたのです。
そのため、「丸の内サディスティック」以前は、主にジャズ・フュージョン系のミュージシャンが「Just The Two of Us進行」と呼んでいました。
とはいえ、そのままでは長いので、現場では略して「トゥオブアス進行」と呼ばれるのが一般的です。「じゃ次はトゥオブアス進行で!テンポはスローね」などと、ジャムセッションでよく使われていました。
若手ミュージシャンなら、それが「丸サ進行で!」に置き換わっている傾向があるのです。
この丸サ進行は最近の日本の音楽シーンにおいて、ポップスやボカロ、ジャズなどで頻繁に用いられています。
丸サ進行を含む楽曲の歌唱や演奏をマスターするには、NAYUTAS町田校でのレッスンが役立ちますよ!
ドレミを数字にした「4361」で覚えよう!丸サ進行の構造
丸サ進行は「4361進行」という別名を持っています。この意味を知れば、ややこしそうな丸サ進行が覚えやすくなりますよ!
順を追って説明しましょう。まず、丸サ進行の原曲キーはE♭メジャーです。
ただし、原曲キーでのコード進行の解説は理解しにくくなるので、ドレミを数字で表現できるディグリーネーム(キーのトニックに対する度数で音や和音を表現する方法)で見ていきましょう。
なお、実際は平行調のCマイナーとする、短調としての解釈もできます。ある長調のキーと、その平行調の短調(E♭メジャーでいえばCマイナー、Cメジャーでいえばマイナー)は表裏一体の関係です。
そもそもこのコード進行は、同じスケールを基本に表裏が繰り返し入れ替わるタイプといえるでしょう。
答えは同じなのですが、マイナー側の解釈は説明が複雑になるので、ここでは比較的理解しやすい長調として解釈します。
丸サ進行のドレミを数字で表現?ディグリーネームでいえば4361
丸サ進行のコードネームを、ディグリーネームに置き換えましょう。
IVmaj7→III7→VIm7→I7(Vm7/Ⅰ7)
このコード進行を言い換えると、次のようになります。
4度メジャーセブン→3度セブンス→6度マイナーセブン→1度セブンス
つまり、4361進行という別名に含まれる「4361」とは度数の流れを示しています。この数字を覚えておけば、どのキーでも「丸サ進行」が設定できるので大変便利です!
なお、I7(Vm7/Ⅰ7)という表記を補足説明しましょう。「丸の内サディスティック」ではこの部分をI7の2拍で通します。
一方、「Just The Two of Us進行」ではこのコードの機能(IVmaj7に戻るためのドミナントモーション=後述)をよりスムーズにするために、Ⅰ7の2拍を1拍ずつVm7とⅠ7に分解してIVmaj7に戻るのです。
さて、4361進行を見て「え?いきなり4度から始まるの?」と思われるかたもいらっしゃるかも知れません。しかし、そういう楽曲はたくさんあります。
たとえば松任谷由美さんの名曲「卒業写真」は、4度(サブドミナント)から始まります。
音楽の豆知識1 〜ディグリーネーム(Degree Name)とは〜
ディグリーネーム(Degree Name)とは音楽理論で使われる用語で、コードを個々のコードネームではなく、トニックとの音程の開きで表す呼び方のことです。
両者の関係は、絶対音感と相対音感の違いとまったく同じといえます。コードネームはそれぞれが確固たる音程を表す絶対的な呼び方です。一方、ディグリーネームはどの音かは問われず、関係性およびその関係性によって生まれる音の性質を表します。
人にたとえたら、ディコードネームはある人の「氏名」や「ニックネーム」、ディグリーネームは「性格」や「役職」のようなものです。
音やコードを、キーが何であるかにかかわらず、そのキーのトニック(音階の第1音=主音)を基準(Ⅰ)とした度数で名づけるので、どのキーのコード進行でも、流れが理解しやすくなります。
いわゆるキーとよばれるものは、メジャーキーとマイナーキーのそれぞれで12種類ずつあり、合計24種類です。これがディグリーネームを用いれば、単にメジャーキーとマイナーキーの2種類に集約できます。
丸サ進行をギターやピアノで!意外に簡単なコードの押さえ方
「丸サ進行」のキーディグリーネームから逆算して、わかりやすくCメジャーに移調した場合、次のようなコード進行になります。
Fmaj7 →E7→Am7 →C7(Gm7 / C7)
上記のコード進行は、ギターやピアノの初心者でも弾けそうな感じではないでしょうか?聴いたイメージからすれば、意外にもコードはシンプルで弾きやすそうです。
でも簡単なわりに「ふわふわ」とし、また「延々と続いていきそう」なこのループの秘密はセカンダリードミナントの使い方にあります。
丸サ進行におけるセカンダリードミナントの2つの使い方
丸サ進行を音楽理論的に解釈すると、2種類のセカンダリードミナント(副次的ドミナント)を巧みに活用した進行といえるでしょう。
その1:VIm7(Am7)を一時的なトニックコードに見立てる
ひとつめのセカンダリードミナントは、VIm7(Am7)を一時的なトニックに見立て、そのドミナントであるIII7(E7)からAm7に導きます。
ただし、Am7という、マイナーセブンスコードになっているところがポイントです。これがAmやAm6、Am9であれば終止感が強くなり、キーはAマイナーという短調の解釈が優勢となるでしょう。
しかしマイナーセブンスコードなので、終止感は薄まります。
なぜならAm7の例でいえば、C6(CメジャーにA音=6度のテンションが付加されたコード)と構成音がまったく同じでルート(根音=和音の基礎となる音)の取り方が異なるだけで、長調とも短調とも判断しがたいのです。
その2:Ⅳmaj7(Fmaj7)を一時的なトニックコードに見立てる
ふたつめのセカンダリードミナントは、その1のような曖昧な響きの直後に来るI7(Vm7/Ⅰ7)です。
これがまた絶妙で、その次に来るⅣmaj7(Fmaj7)はトニックのサブドミナントですが、一時的なトニックに見立てています。
そしてⅠ7(C7)をⅣmaj7(Fmaj7)に向かうドミナントセブンスとする、「ドミナントモーション」(ドミナントからトニックに解決する流れ)を行うのです。
この2種類のセカンダリードミナントは、より細かくいえばモーダルインターチェンジを用いたドミナントモーションになります。そのキーのトニック以外のコードに解決する流れです。
一時的な転調ともいえますが、楽曲全体の調性を変えるほどの強さはありません。その直後にE7→Am7となり、少しCキーとしての終止感が出るので、Fmaj7はサブドミナントとしての機能を超えません。
そしてセカンダリードミナントが2種類登場するにもかかわらず、本来あるべきV7からⅠmaj7のドミナントモーションは出てこないのです。
音楽の豆知識2 〜モーダルインターチェンジ(Modal Interchange)とは〜
モーダルインターチェンジ(Modal Interchange)とは音楽理論において、そのキーのトニック以外の音階をルート(根音)とするコードを「借用」して、楽曲に新たな響きや色彩を加える手法です。
これを転調に使うテクニックは「ピボットモジュレーション」と呼ばれます。
たとえばCメジャーのキーでサブドミナントのFに軸足を移してFメジャーや、その平行調のDマイナーに転調が可能です。
また、本来のトニック以外の音階をルート(根音)とするコードを、トニック以外の機能に見立てることも可能です。
たとえば前述のFを、トニックではなくドミナントに見立てると、B♭キーへの転調ができます。
なお、ピボットモジュレーションを含めて「転調」については、以下の記事でくわしく解説しています!
コード進行の調整を曖昧に?そのねらいは
丸サ進行では、純粋な意味でのトニックコード(ⅠまたはⅠmaj7:キーがCメジャーならCまたはCmaj7)を「あえて」存在させていません。
トニック機能と解釈できるのはAm7ですが、前述のように終止感は弱いので、調性の確定まで至らないまま、コードの循環は続いていきます。
Ⅰ7(C7)は登場しますが、トニック機能はセブンス音(短7度)によって阻害されるのです。
もちろん、ブルースやロック、ジャズのように、トニックにⅠ7を持ってくる場合もあります。しかし、その場合はセブンス音(短7度)が短3度と同様に「ブルーノート(Blue Note)」として扱われるからこそ、トニックとして機能するのです。
C7の短7度は丸サ進行でブルーノートスケールとして響かない
ブルーノートとは、簡単にいえばトニック(主音)の3度と7度(5度を含める場合もある)を半音下げた音を意味します。そして、ダイアトニックスケールから3度と7度を半音下げたスケールが、ブルーノートスケールです。
丸サ進行を除く多くの場合、メジャーキー(Cメジャー)においてそれらが鳴ると、同じトニックのマイナー(Cマイナー)に似た感じになります。気だるい、憂鬱や悲しみを感じさせる(ブルーな)響きです。
ブルーノートおよびそれを含むブルーノートスケールは、ブルース系音楽に欠かせない、核となる音群といえるでしょう。
しかし、このコード進行でC7が鳴るとき、一時的にFキーのドミナントとして響くので、C7のセブンス音はブルーノートスケールとしては響きません。ジャジーではあっても、ブルージーな曲調にはならないのです。
V7(G7)からⅠmaj7(Cmaj7)という通常のドミナントモーションは登場せず、終止感が弱いゆえの漂う感じをねらったのでしょう。
終止感が弱く調性も曖昧に
終止感の不完全さに加え、めまぐるしく連続する2つのセカンダリードミナントの存在との相乗効果で、楽曲の調性(トーナリティ:キーを確定する要素)はますます曖昧になっています。
つまり、ハ長調(Cメジャー)なのかイ短調(Aマイナー)なのか、あるいはヘ長調(F)なのかが、にわかにはわかりづらいのです。
そして調性が判別しないままコードは巡っていくので、いつまでも終わりが来ないような浮遊感を伴う、絶妙なコードの流れ方といえるでしょう。
また、III7やI7といったノンダイアトニックコード(ダイアトニックスケール以外の音を含むコード)の登場で、ジャズ的な洗練された趣きも感じさせます。
音楽の豆知識3 〜ドミナントモーション(Dominant Motion)とは?〜
ドミナントモーション(Dominant Motion)とは、音楽理論において、特にポピュラー音楽やジャズで頻繁に使用されるコード進行です。
具体的には、ドミナントコード(V7)からトニックコード(I)へ解決する進行を指します。この進行の最大の特徴は、楽曲に強い解決感や安定感をもたらし、聴き手に心地よい終止感を与える点です。
例えば、Cメジャーキーの場合、ドミナントモーションは次のようになります:
G7(V7) → C(I)
G7の不安定な響きがCの安定した響きに解決され、強い終止感が生まれます。このドミナントモーションは、ポップスやロック、ジャズなど多くのジャンルで広く使用されています。
アルバム『Wine Light』随一の有名曲「Just The Two of Us」
アルバム『Wine Light』からシングルカットされ、グラミー賞最優秀R&Bソング賞を受賞した「Just the Two of Us」は、アメリカ合衆国の有名なヒットチャート「Billboard Hot 100」で最高2位を記録しました。
作詞・作曲はヴォーカルを担当したビル・ウィザースと、ウィリアム・ソルターおよびラルフ・マクドナルドの三者による合作です。
ちなみに、同アルバムで音楽プロデューサーも務めたラルフ・マクドナルドは、トリニダード・トバゴ出身のパーカッション奏者です。
独特の倍音の響きを持つ楽器、スチールパン(Steelpan)の演奏でも知られており、「Just the Two of Us」でも披露しています。
「Just the Two of Us」はジャズ、R&B、ポップの要素を絶妙にブレンドさせた楽曲で、そのメロディーと歌詞は多くの人々に愛されています。
なお、倍音については以下の記事で掘り下げて解説しています!
倍音とは?歌声・楽器の響きをつかさどる音の物理法則をわかりやすく解説
「Just the Two of Us」はコード進行だけじゃない
いうまでもなく、「Just the Two of Us」の成功の要因は、コードアレンジが優れているだけではありません。
グローヴァー・ワシントンJr.の情感宿るサックスプレイは、抑制された「泣き」や「溜め」が聴く者の心の琴線に触れ、優しく揺さぶります。
また、リチャード・ティーのフェンダーローズ(エレクトリックピアノ)の熟練のプレイも圧巻です。淡く厳かな音色とリリカルなフレージングが、こよなく美しく響きます。
加えて、ビル・ウィザースの深みと温かみのあるヴォーカルも絶品といって差し支えないでしょう。大人の艶やかさが満ちている歌唱で、この楽曲の魅力を最大限に高めています。
それらのさまざまな要素が相まって、「Just the Two of Us」は現在でも幅広い世代に親しまれているのです。
グローヴァー・ワシントンJr.のキャリアにおいて、この曲の成功は大変重要な位置を占めています。名実ともに、彼の代表作といえるでしょう。
「Just the Two of Us」は、グラミー賞史上に輝く名曲として、今後も多くの人々に聴かれ続けることでしょう。
「Just the Two of Us」のカバーバージョン
「Just the Two of Us」には、これまで多くのアーティストによるカバーバージョンが生まれました。
ヒップホップでは、俳優としても大活躍のウィル・スミスのカバーが、スリリングで聴き応えがあります。
ブラックミュージック愛があふれる、久保田利伸さんのカバーも秀逸です。
人気者、藤井風さんの弾き語りによるカバーは、エネルギッシュかつエモーショナルで、楽曲が風さんの魅力を引き出し、風さんの魅力が楽曲の印象を深めています。
「Just The Two of Us」以前の、近いコード進行
「Just the Two of Us」は編曲や演奏の完成度の高さが素晴らしく、「Just The Two of Us進行」と呼ばれて然るべきものでした。とはいえ、それ以前にも、非常によく似た構造のコード進行は存在していました。
たとえば1978年のシェリル・リンの大ヒットディスコチューン「Got To Be Real」です。リリースされてから、ディスコで掛からない日はなかったといわれます。
「Just the Two of Us」に似た循環コードの繰り返しのなかでクールに、しかし熱く盛り上がっていく、ディスコにぴったり似合う曲です。
また、ボビー・コールドウェルの同じく1978年のヒットチューン「What You Won’t Do for Love」も、「Just the Two of Us」に近い、クールなコード進行です。
ほかにも、「Just the Two of Us」を含むアルバム『Wine LIght』とほぼ同時期に発表されたので、その影響をおそらく受けていないカーティス・メイフィールドの「Tripping Out」があります。
グルーブ感が強いファンキーなバラードですが、「Just the Two of Us」に通じる曲想です。
多すぎる!丸サ進行(Just The Two of Us進行)絡みの有名曲一覧(邦楽・洋楽)
丸サ進行(Just The Two of Us進行)に影響を受けていそうな、もしくはズバリ使用している楽曲は、「多すぎる!」といわれるくらい存在します。
邦楽で丸サ進行に影響を受けたと思われる曲
邦楽、つまり日本の音楽シーンで丸サ進行に影響を受けたと思われる楽曲を挙げると、次のとおりです。
「夜に駆ける」/YOASOBI
「愛を伝えたいだとか」/あいみょん
「春を告げる」/yama
邦楽で「丸の内サディスティック」よりも前にリリースされた、Just The Two of Us進行を持つ曲では、1993年リリースのオリジナル・ラブの「接吻」があります。
ただし、作詞作曲とヴォーカルを担当した田島貴男さんは、カーティス・メイフィールドの大ファンなので、「Just The Two of Us」というより「Tripping Out」にインスパイアされたのかも知れませんね。
「丸の内サディスティック」より1年前にリリースされたMISIAさんの、のっけからのハイトーンが衝撃的なデビュー曲「つつみ込むように…」も、AメロがJust The Two of Us進行です。
洋楽でJust The Two of Us進行に影響を受けたと思われる曲
洋楽でJust The Two of Us進行に影響を受けていると思われる曲も挙げておきます。
まず、R&Bの大御所アイズレー・ブラザーズのヒットチューン「Between the Sheets」です。Just The Two of Us進行を取り入れた、ゆったりしたリズムの洗練された楽曲となっています。
また、R&Bをベースにした、バンド形態を重視するジェイ・ケイのソロユニット、ジャミロクワイのヒットチューン「Virtual Insanity」も、Just The Two of Us進行から派生したような音の流れを感じさせます。
まとめ
丸サ進行(Just The Two of Us進行)は都会的で洒落た響きを持つ、トニックコードを含まない独特のコード進行です。現代の音楽シーンで多用される理由は、その浮遊感や曖昧さにあります。
このクールな音の流れは感覚に訴えるものですが、その裏にはコード進行上の技巧が詰まっているのです。そんな丸サ進行の楽曲を歌いこなし弾きこなすのを、NAYUTAS(ナユタス)町田校が応援します。
音楽制作や演奏、歌唱において丸サ進行を理解し活用することにより、楽曲に新たな魅力を加えられるでしょう。
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